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医療を守りながら持続可能にする

患者負担増を主軸にせず、情報連携、報酬設計、医薬品政策の見直しで、必要な医療アクセスと持続可能性を両立させる考え方を整理します。

私が医療分野で重視しているのは、必要な医療アクセスを守りながら、医療費の増加圧力を緩和し、限られた財源を価値ある医療に振り向けることです。

高齢化、医療者の賃上げ、医療技術や医薬品の進歩に伴い、医療費が一定程度伸びること自体は避けられません。これまで治療できなかった病気に新しい選択肢が生まれるなら、その価値は社会として受け止めるべきです。

一方で、高齢化による医療需要の増加を、そのまま医療費の増加に直結させてよいわけでもありません。重症化、再入院、重複、連携不全、低価値な医療、制度上の歪みを減らし、同じかそれ以上の健康成果をより無理の少ない形で実現する必要があります。

医療と財源のトレードオフを、技術や仕組みでできる限り緩和する。

この提案だけでは医療費問題を一挙に解決することはできません。政府が進めている医療DX、薬価制度改革、地域医療構想、かかりつけ医機能、リフィル処方などの取り組みに対して、現場で実際に機能するように追加し、補強するための考え方であり、根本解決までの猶予を作るためのものです。

問題設定

日本の医療には、全体として望ましいことが、個々の医療機関にとっては実行しにくいという構造があります。

たとえば、医療機関のあいだで情報が共有されれば、重複検査や重複投薬を減らし、紹介や逆紹介もスムーズにできます。しかし、そのために必要なシステム改修、運用変更、職員教育、ベンダー調整の負担は、個々の病院や診療所に集中しがちです。

その結果、次のような問題が積み上がります。

なぜ今のやり方では足りないか

高齢化による増加圧力は、完全には消せないが緩和できる

高齢化によって慢性疾患、多疾患併存、在宅医療、介護との接続が必要な人は増えていきます。この需要そのものをなくすことはできません。

しかし、何もしない場合の医療費の伸びを抑える余地はあります。たとえば、早期の状態把握、重症化予防、不要な入院や再入院の抑制、重複検査や重複投薬の削減、医療と介護の接続改善は、患者の生活の質を守りながら医療資源の使い方を改善する可能性があります。

重要なのは、医療費の増加を単純に否定することではなく、増える医療需要をより価値の高い医療に結びつけ、避けられる非効率を減らすことです。

患者負担増を主軸にすると、本当に守るべき医療まで遠ざけやすい

医療費の伸びに対応する方法として、窓口負担増や受診抑制を先に置く議論があります。患者負担の見直しには一定の財政効果や需要抑制効果があり得ますが、それを主軸にすると、必要な受診まで遠ざけやすくなります。特に慢性疾患、低所得、複数の困難を抱える人では、受診控えが重症化や救急受診の増加という形で、別のコストを生む可能性があります。

まず手をつけるべきなのは、

といった、制度と設計の側にある無駄です。

医療DXを一般企業のDXと同じ発想で進めると、現場にしわ寄せが来る

医療は命に関わるオペレーションです。現場はすでに限られた余力の中で医療安全を守り続けています。そのため、新しい仕組みを一気に入れて二重入力や移行負担を増やすような改革は、理屈として正しく見えても実装段階で止まります。

必要なのは、理想を押しつけることではなく、現場の変更コストを最小化しながら全体最適に近づける設計です。

院内改革だけではなく、医療機関どうしの受け渡しを改善しないと効率は上がらない

院内の業務改善にも余地はありますが、日本の医療で改善余地が大きいのは、むしろ医療機関間の接続です。

この受け渡しが弱いままだと、患者が自分で情報を持ち運び続ける構造が残ります。

提案の柱

1. 情報連携基盤を整備する

医療機関どうしで最低限共有されるべき情報を標準化し、検査結果、処方歴、既往歴、退院時サマリーなどが連携しやすい状態をつくるべきです。

重要なのは、小規模診療所でも参加できる設計にすることと、特定ベンダーへの依存を強めないことです。連携基盤は、現場の個別努力に任せるのではなく、公的に整えるべきインフラです。

2. 導入コストと更新コストに公的に関与する

全体として便益が大きい基盤整備でも、個々の医療機関が単独で費用を負担する限り、進みにくいままです。

そのため、

を通じて、受益と負担のねじれを小さくする必要があります。

3. 外来報酬を短時間、頻回受診偏重から見直す

現行の外来報酬には、短時間で単一の問題を処理し、頻回に受診させる方が回りやすい面があります。しかし、患者にとって望ましい外来が常にそれとは限りません。

見直しの方向は次の通りです。

4. 複雑な患者を制度上きちんと支える

複数の慢性疾患を持ち、心理社会的な困難も抱える患者が増えています。この層は短時間外来だけでは支えきれず、問題が分断されやすいのが実情です。

疾患数だけではなく、

まで含めて支える設計が必要です。

5. 在宅医療、介護との接続を前提にする

高齢化が進む中では、病院完結型から地域完結型への転換が不可欠です。外来だけで完結しない患者に対して、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、介護事業者との接続を支える制度と情報基盤が必要です。

6. 医薬品政策は、一律削減ではなく価値と供給を両立させる

医薬品は、医療費の重要な構成要素であると同時に、医療の質を高める技術進歩そのものでもあります。新しい薬によって、これまで治療が難しかった病気を治療できるようになるなら、その価値は適切に評価されるべきです。

一方で、公的医療保険で支える以上、薬価や販売促進のあり方が医療の価値と見合っているかは継続的に点検する必要があります。先発品については、革新的な価値と販売促進的なコストを分けて考え、費用対効果評価、薬価制度、利益相反の透明化、適正使用情報の中立性を高めることが重要です。

後発医薬品については、単純な薬価引き下げを続けるだけでは、品質確保や安定供給を損なう恐れがあります。価格を抑えることと、必要な薬を安定して届けることを両立させるため、先発品と後発品を一律に扱わず、産業構造や供給責任を踏まえたリバランスが必要です。

重視する対象と実装上の論点

私が特に重視しているのは、次の論点です。

医療現場はすでに限界まで努力しています。だからこそ、改革の対象は現場の根性ではなく、現場の変更コストを小さくする制度側であるべきです。

まとめ

私の医療分野での考え方の中核は、次の五点です。

  1. 高齢化による医療費の増加圧力を見据え、何もしない場合の伸びを抑える
  2. 必要な医療アクセスを守りながら、連携不全と制度の歪みを正して持続可能性を高める
  3. 医療DXを現場への負担転嫁ではなく、公的基盤整備として進める
  4. 外来、複雑患者、在宅、介護まで含めて、地域で支える医療へ移る
  5. 医薬品については、革新的価値、薬価の妥当性、後発品の安定供給を同時に考える

医療を「削るか守るか」という単純な対立で考えるのではなく、どうすれば必要な医療の質を高めながら、避けられる無駄と分断を減らせるかという設計の問題として扱うべきだと考えています。