考え方と提案へ戻る

Theme

医療を守りながら持続可能にする

患者負担増を主軸にせず、情報連携と報酬設計の見直しで、必要な医療アクセスと持続可能性を両立させる考え方を整理します。

私が医療分野で重視しているのは、必要な医療アクセスを守りながら、医療費を持続可能な形に整えることです。

ここでいう持続可能性は、必要な医療を削ることではありません。重複、連携不全、制度上の歪み、現場に過度な負担を押しつける構造を見直し、同じかそれ以上の健康成果をより無理の少ない形で実現することです。

主語は患者の我慢や医療者の自己犠牲ではなく、制度設計、情報基盤、報酬体系です。

問題設定

日本の医療には、全体として望ましいことが、個々の医療機関にとっては実行しにくいという構造があります。

たとえば、医療機関のあいだで情報が共有されれば、重複検査や重複投薬を減らし、紹介や逆紹介もスムーズにできます。しかし、そのために必要なシステム改修、運用変更、職員教育、ベンダー調整の負担は、個々の病院や診療所に集中しがちです。

その結果、次のような問題が積み上がります。

なぜ今のやり方では足りないか

患者負担増を主軸にすると、本当に守るべき医療まで遠ざけやすい

医療費の伸びに対応する方法として、窓口負担増や受診抑制を先に置く議論があります。しかし、それでは必要な受診まで遠ざけやすく、重症化や救急受診の増加という形で、別のコストが後から返ってくる可能性があります。

まず手をつけるべきなのは、

といった、制度と設計の側にある無駄です。

医療DXを一般企業のDXと同じ発想で進めると、現場にしわ寄せが来る

医療は命に関わるオペレーションです。現場はすでに限られた余力の中で医療安全を守り続けています。そのため、新しい仕組みを一気に入れて二重入力や移行負担を増やすような改革は、理屈として正しく見えても実装段階で止まります。

必要なのは、理想を押しつけることではなく、現場の変更コストを最小化しながら全体最適に近づける設計です。

院内改革だけではなく、医療機関どうしの受け渡しを改善しないと効率は上がらない

院内の業務改善にも余地はありますが、日本の医療で改善余地が大きいのは、むしろ医療機関間の接続です。

この受け渡しが弱いままだと、患者が自分で情報を持ち運び続ける構造が残ります。

提案の柱

1. 情報連携基盤を整備する

医療機関どうしで最低限共有されるべき情報を標準化し、検査結果、処方歴、既往歴、退院時サマリーなどが連携しやすい状態をつくるべきです。

重要なのは、小規模診療所でも参加できる設計にすることと、特定ベンダーへの依存を強めないことです。連携基盤は、現場の個別努力に任せるのではなく、公的に整えるべきインフラです。

2. 導入コストと更新コストに公的に関与する

全体として便益が大きい基盤整備でも、個々の医療機関が単独で費用を負担する限り、進みにくいままです。

そのため、

を通じて、受益と負担のねじれを小さくする必要があります。

3. 外来報酬を短時間、頻回受診偏重から見直す

現行の外来報酬には、短時間で単一の問題を処理し、頻回に受診させる方が回りやすい面があります。しかし、患者にとって望ましい外来が常にそれとは限りません。

見直しの方向は次の通りです。

4. 複雑な患者を制度上きちんと支える

複数の慢性疾患を持ち、心理社会的な困難も抱える患者が増えています。この層は短時間外来だけでは支えきれず、問題が分断されやすいのが実情です。

疾患数だけではなく、

まで含めて支える設計が必要です。

5. 在宅医療、介護との接続を前提にする

高齢化が進む中では、病院完結型から地域完結型への転換が不可欠です。外来だけで完結しない患者に対して、訪問診療、訪問看護、ケアマネジャー、介護事業者との接続を支える制度と情報基盤が必要です。

重視する対象と実装上の論点

私が特に重視しているのは、次の論点です。

医療現場はすでに限界まで努力しています。だからこそ、改革の対象は現場の根性ではなく、現場の変更コストを小さくする制度側であるべきです。

まとめ

私の医療分野での考え方の中核は、次の三点です。

  1. 必要な医療アクセスを守りながら、連携不全と制度の歪みを正して持続可能性を高める
  2. 医療DXを現場への負担転嫁ではなく、公的基盤整備として進める
  3. 外来、複雑患者、在宅、介護まで含めて、地域で支える医療へ移る

医療を「削るか守るか」という単純な対立で考えるのではなく、どうすれば必要な医療を守りながら無駄と分断を減らせるかという設計の問題として扱うべきだと考えています。